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東京高等裁判所 平成3年(行コ)30号 判決 1993年2月09日

甲事件被控訴人・乙事件及び丙事件控訴人(一審原告)春日博道

甲事件控訴人・乙事件及び丙事件被控訴人(一審被告)荒川税務署長

代理人 武田みどり 寺島進一 ほか三名

主文

一  甲事件

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は第一審被告の負担とする。

二  乙事件

1  原判決を取り消す。

2  第一審被告が第一審原告の昭和六三年分所得税について、平成元年九月二九日付けでした更正のうち総所得金額二四七万六二四九円、納付すべき税額一一万八〇〇〇円を超える部分及び平成二年二月一九日付けでした過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  第一審被告が第一審原告の平成元年分所得税について、平成二年七月三一日付けでした更正のうち総所得金額三一二万八六二一円、納付すべき税額一二万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

4  訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告の負担とする。

三  丙事件

1  原判決を取り消す。

2  第一審被告が第一審原告の平成二年分所得税について、平成三年五月二八日付けでした更正のうち総所得金額三五二万八七四五円、納付すべき税額一六万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  第一審原告

1  甲事件

主文第一項同旨

2  乙事件

主文同旨

3  丙事件

主文同旨

二  第一審被告

1  甲事件

(一) 原判決を取り消す。

(二) 第一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告の負担とする。

2  乙事件

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。

3  丙事件

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件)

当事者双方の主張は、次のとおり訂正するほかは、原判決事実摘示の「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  「原告」とあるのを全て「第一審原告」に、「被告」とあるのを全て「第一審被告」に改める。

二  原判決五枚目裏八行目冒頭から同八枚目表八行目末尾までを次のとおり改める。

「1 本件各処分の前提になった税務調査の経緯

(一) 第一審被告は、第一審原告が印刷業を開業して以来長期間その所得税について調査を行っていなかったことから、帳簿書類の備え付け状況及び所得金額を確認するために調査を行う必要を認め、第一審被告所属の上席調査官丸子和良(以下「丸子調査官」という。)に調査を命じた。

(二) 丸子調査官の調査の経緯は、次のとおりである。

(1) 丸子調査官は、昭和六一年七月二三日を初めとして、何度か第一審原告の事業所に調査のために臨場したが、第一審原告が不在だったり、あるいは第一審原告の多忙を理由に調査に応じてもらえず、その後、九月三日になって、ようやく第一審原告から、同月九日午後三時からの調査に応じる旨の回答を得るに至った。

(2) そこで、丸子調査官が同日第一審原告の事業所に臨場したところ、そこには荒川民主商工会(以下「荒川民商」という。)の事務局長外第一審原告の事業に関係のない者五名が待機していた。丸子調査官は、第一審原告に対して右の者らを退席させるよう求めたが、第一審原告はこれに応ぜず、また、右事務局長らも、丸子調査官に対し、「臨席してはいけない法律があるか」、「調査理由は何だ」などといって退席しないばかりか、丸子調査官が記帳状況等について確認しようとするたびに、「調査理由を聞きなさい。」などといって、第一審原告に調査理由を聞かせ、丸子調査官が第一審原告に対し、「課税標準の確認です。」と答えると、「こんなことでは駄目だな。二年でも三年でも勝手にやるんだな。」などと口々にいって、調査を妨害し、そのうち午後四時三〇分ころになると、高橋事務局員が「もう四時半過ぎだぞ、もう終わりだ、もう終わりだ。」といって、丸子調査官を追い出すような状況を作った。そこで、丸子調査官は、このような状況下ではそれ以上の調査の進展は望めないものと判断し、第一審原告に対し、調査に対する協力と次回の調査日の連絡を依頼してその場を辞去した。

(3) 昭和六一年一〇月二一日午後三時五〇分ころ、丸子調査官は、第一審原告の事業所に電話し、第一審原告に対し、「九月九日のとき後日連絡するといっていたのに」と切りだしたところ、第一審原告は、「仕事が忙しくて連絡できなかった」旨釈明した。そこで、丸子調査官が、「次回は帳簿書類を示してくれるかどうか」聞いたところ、第一審原告は、「協力はするが、調査理由を聞いていない」というので、丸子調査官が、「調査理由は課税標準の確認であり、さらに具体的理由は直接第一審原告にのみ可能な範囲で説明する」旨いったところ、第一審原告は、立会人のいる前で説明するようにいって、そのことにこだわるようであったので、丸子調査官は、立会人の前での調査にこだわるのであれば、独自の調査をせざるを得ないことと青色申告の承認の取消処分を検討せざるを得ない旨を説明したが、第一審原告は、「もういい。」といって、電話を切った。

(4) 丸子調査官は、同月二三日午後〇時五五分ころ、荒川税務署裏の路上で第一審原告に出会った際、「今から調査理由を説明しようか」といったところ、第一審原告は、「今はいわなくてもいい、みんなの前で説明してください」と慌てていった。そこで、丸子調査官が、「それでは前回と同じになるわけですね」と聞くと、「そうだ」と答えたので、前回同様、独自の調査、青色申告承認取消処分の検討を伝えたところ、第一審原告は、「取引先との関係がおかしくなったら税務署の責任だぞ。あんたが責任を取れ。」といって、その場は別れた。

(5) 丸子調査官は、昭和六二年一月二一日午後三時五三分ころにも第一審原告の事業所に電話をして、帳簿書類を提示しなければ、青色申告の承認が取り消されることになるので、帳簿書類を提示するか否か、その意思を明確にするよういったところ、第一審原告は、検討して連絡する旨答えた。

(6) それから数回にわたり、第一審原告と第一審被告側係官との間で調査の日取り等についてやり取りがあった後、同年二月一六日になって、第一審原告は、同月一八日午後一時から調査を行うことを了承するに至った。

(7) 同日、丸子調査官が第一審被告所属の調査官天内洋(以下「天内調査官」という。)を同行して第一審原告の事業所に臨場したところ、第一審原告のほかに荒川民商の高橋事務局員が待機していた。この日も、第一審原告は、丸子調査官に対して調査理由を説明することを要求したり、第一審被告側が既に第一審原告の得意先を調査していることについて強く抗議したり、あるいは、丸子調査官が電話で青色申告承認取消処分をする旨脅迫したと非難したりした。さらに、丸子調査官が帳簿書類を提示するように求めたのに対し、第一審原告は、「見せますよ。」といいながらも、「以前二人きりだったら話すといっていた。」として再度調査理由を話すように求めた。そこで、丸子調査官は立会人がいるような状況では話はできないので関係のない人は退席してほしい旨述べて高橋事務局員の退席を求めたが、同人はこれに応じなかった。丸子調査官は、二本の指で机を軽く二、三回叩きながら「ともかく、帳簿等をここに提示して検査させて下さい」と要請した。これに対し、高橋事務局員は、机が壊れるので叩かないでほしい旨発言したので、丸子調査官は、この大袈裟な発言の真意を図りかねたが、それは無視して、さらに帳簿書類の提示を求めたところ、高橋事務局員は、ダンボール箱の中から帳簿及び伝票のようなものを取り出し、第一審原告の左脇の机の上に置いた。しかし、天内調査官や丸子調査官が第一審原告に対し、具体的に帳簿書類を提示するようにいっても、帳簿書類をその前に差し出して提示する行動はなかった。帳簿書類は椅子に座ったままではもちろんのこと、手を延ばしてその場で立ち上がっても届く位置ではなかった。そして、その場の雰囲気からして、第一審原告の脇に置かれている帳簿書類を手に取ること自体、任意調査の限界を超えている等の抗議を受けるような状況であった。そこで、丸子調査官及び天内調査官は、それ以上調査が進展しないものとして、第一審原告の事業所を辞去せざるを得なかった。その帰り際、高橋事務局員が「馬鹿野郎」と罵声を浴びせた。

(8) 同年三月二日、第一審被告所属の佐藤統括官が帳簿書類を提示する意志が第一審原告にあるか否かを確認するため、第一審原告の事業所に臨場した際、第一審原告は、「わたしは帳簿を備付けているし、見せるつもりでいる。でも、組織に入っていて、世話になっているので、組織のいうとおりにする必要がある。」旨述べ、最終的な返事は組織に相談してからする旨回答した。そして、第一審原告は、同月四日、佐藤統括官に電話をし、「先月二〇日に第一審被告に送付した内容証明(同月一八日の丸子調査官の調査についての質問状)に対し文書で回答しなければ帳簿は提示できない。」旨述べたので、佐藤統括官がこれに回答しない旨答えたところ、第一審原告は、「組織の決めたとおりにやります。」といった。そこで、佐藤統括官が、それでは青色申告承認取消処分をすることになるというと、第一審原告は、「仕方ありません。この次はそういうことのないようにやりたいと思います。」と答えた。

2 本件青色申告承認取消処分の適法性

(一) 所得税法は、帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法一四八条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告承認の取消事由としている(同法一五〇条一項一号)。これは、納税者の帳簿書類について税務署長が同法二三四条の規定に基づく調査をなし得ることを前提として、その調査により帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることを確認することができた場合にのみ青色申告承認による特典を与えるとの趣旨に出たものであるから、青色申告者が右帳簿書類の調査にいわれなく応じないため、その備付け、記録及び保存が正しく行われていることを税務署長が確認することができないときも、同法一五〇条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当するものと解すべきである。そして、右取消事由に該当するか否かの判断に当たっては、前記のとおり、青色申告制度は、法の定めに従って適式に帳簿を備え付けてこれに取引を忠実に記載し、右帳簿に基づき申告しようとする納税者に限って青色申告により申告することを承認し、その承認を受けた納税者に対し課税手続上の特典及び所得ないし税額計算上の種々の特典を与えるものであるから、青色申告者の側において税務調査を受ける以上、税務職員からの提示要求に応じ帳簿書類を提示して、記帳が正確であり、申告内容が正しいことを説明すべき義務があるということを認識する必要があるというべきである。

(二) これを本件についてみると、前記のとおり、第一審原告は、第一審被告からの度重なる帳簿書類の提示要請にもかかわらず、これを提示せず、前記の帳簿書類の提示義務に反し、そのため、第一審被告は、その調査が開始された昭和六一年七月二三日から第一審原告が佐藤統括官に対し調査の拒否を通告してきた昭和六二年三月四日までの間、第一審原告の帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われているか否かを確認することができなかったのであるから、第一審原告の行為は、所得税法一五〇条一項の取消事由に該当するものというべきである。

(三) また、仮に第一審原告の帳簿書類が第一審被告所属係官の目前に提示されたと解し得べき余地があるとしても、これが第三者の立合いの下でなされたものであるときは、当該調査の内容が取引の相手方である第三者の秘密にわたることもあり、ひいては税務職員の守秘義務に反することにもなりかねないから、帳簿等についての質問検査の行使が適正かつ十分にでき得る状況にはなかったというべきところ、前記のとおり、第一審原告は、第一審被告の所属係官が、第三者である荒川民商の事務局員らを退席させるよう要求したにもかかわらず、これに応じなかったものであるから、本件においては、このことのみをとっても、帳簿の不提示があったと解されるべきである。したがって、第一審被告が前記取消事由を理由にした本件青色申告承認取消処分は適法である。」

三  同九枚目表二行目の「三九五万七五九一円」を「三九五万七五九二円」に、同一〇枚目表八行目の「五三〇万九六一七円」を「四六〇万七〇一七円」に改める。

四  同一一枚目表五行目の冒頭から同一三枚目裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「1 第一審被告の主張1(税務調査の経緯)について

(一) (一)の事実は知らない。

第一審原告は、昭和四八年以来、自らの印刷業の事業について、適式な帳簿書類の備付け、記録、保存をし、これに基づいて所得税の青色申告を行ってきたものであって、第一審原告の申告は適正なものであり、その内容が誤りであることを推認させるような事実はない。また、所得金額の確認という口実は、税務調査のための質問検査権の行使の理由とはなり得ない。

(二) (二)について

(1) (1)の事実は認める。もっとも、丸子調査官は、何らの事前通知もなく突然第一審原告方に臨場し、その際、第一審原告は、業務が多忙を極めていたため、その旨を丸子調査官に伝えたにすぎない。

(2) (2)の事実のうち、昭和六一年九月九日に丸子調査官が第一審原告の事業所に臨場したこと、その際、荒川民商の事務局長らが在席していたこと、第一審原告が調査理由を聞いたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第一審原告は、当日、事業所に机を据え、そのまわりに椅子を配置し、帳簿書類を入れたダンボール箱を用意して丸子調査官を迎えたのである。立会人については、丸子調査官は、初めは難色を示したものの、強いて退席を求めようとはしなかった。第一審原告が調査理由を尋ねたところ、丸子調査官が「所得の確認」とだけ答えたので、もっと具体的な理由を教えてくれるよう求めたことはある。高橋事務局員が、「もう終わりだ」といって、丸子調査官を追い出すような状況を作ったことはないし、同人始め立ち会った者が、第一審被告主張のような乱暴な言葉を用いて調査を妨害したことはない。また、丸子調査官の「記帳しているか」との問いに対して、第一審原告は前記のダンボール箱を示している。さらに、丸子調査官は、日を改めて調査させてもらうといって退去したが、帰り際に第一審原告に対し、「次回に二人だけならば具体的な調査理由を教える」と述べている。

(3) (3)の事実のうち、その主張の日に電話があったことは認めるが、その余の事実は否認する。

第一審原告は、丸子調査官が「取引先を調査する」と威嚇的にいうので、「帳簿書類の検査に協力するから取引先調査はしないで下さい」と要請したものである。

(4) (4)の事実のうち、その主張の日に路上で会ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

第一審原告は、丸子調査官が、「独自の調査をする」、「取引先を調べる」というので、「反面調査はしないで下さい」、「得意先に行ってマイナスな面が出たら責任を取ってもらいますからね」と応じたものである。

(5) (5)の事実のうち、その主張の日に電話があったことは認めるが、その余に事実は否認する。

その電話の内容は、「独自の調査は終わった。帳簿書類を見せて調査を受けるか、調査を受けずに青色申告承認取消処分を受けるか、二つに一つを選べ」という一方的なものであった。第一審原告は、印刷機を回して手が離せないので、「機械を回していますから、あとで連絡します」と答えた。

(6) (6)の事実は認める。もっとも、第一審原告は、その間、丸子調査官に対し、帳簿書類は全部あるので見せる旨を電話等で伝えているし、丸子調査官が真面目に取り合ってくれないので、二月五日、第一審被告宛に、内容証明郵便で質問書を送付し、その中で「なぜ、普通の調査ができないのか」と訴えたが、第一審被告からの回答はなかった。

(7) (7)の事実のうち、昭和六二年二月一八日に丸子調査官が天内調査官を同行して第一審原告の事業所に臨場したこと、その場に高橋事務局員が立ち会っていたこと、調査理由を聞いたこと、反面調査をされて大変迷惑している旨述べたことは認めるが、その余の事実は否認する。

当日、第一審原告は、ダンボール箱に入れた帳簿書類全部を机の上に展示して、丸子調査官に応接している。また、高橋事務局員の立合いについては、丸子調査官は、「あなたの友人がいると思っている」と答え、事実上その立合いを認めていた。ところが、丸子調査官は、灰皿を出させて煙草を吸った後、にわかに興奮し、「帳簿を見せるのか見せないのか」と居丈高になってこぶしで机を二、三回強く叩いたため、驚いた高橋事務局員がダンボール箱から帳簿書類を出して、丸子調査官の方に向けて広げて見せたのに、丸子調査官は、「検査というものは私の手の上に置いて見える状態にしないと駄目だ」といい残し、天内調査官を促して退去してしまった。その際、高橋事務局員が、「馬鹿野郎」といったことはない。結局、丸子調査官は、第一審原告が適式な帳簿書類を備付けているのを確認しながら、それをあえて検査しようとせず、逆に第一審原告の責任で検査できなかったかのような口実を作ることに汲々としていたのである。

(8) (8)の事実のうち、三月二日に佐藤統括官が第一審原告の事業所に臨場したこと、第一審原告が同月四日に電話したこと、二月二〇日に第一審被告宛に内容証明郵便を送付したことは認めるが、その余の事実は否認する。

佐藤統括官が第一審原告の事業所に臨場した目的は調査ではなく、「帳簿書類を提示する意志があるかどうかを確認したい」ということであったので、第一審原告は、「提示するつもりである」と答え、「丸子調査官の態度が酷いのでほかの人に代えてもらえないか」、「内容証明郵便のことで文書で返事をもらえないか」と頼んだが、佐藤統括官は、それはできない旨答えた。

2 第一審被告の主張2(本件青色申告承認取消処分の適法性)について

第一審被告の右主張は争う。

所得税法一五〇条一項一号の文理上、第一審被告のいう調査に協力しなかったことが、直ちに帳簿書類の備付け、記録、保存が法の定めるところに従って行われていないとの青色申告承認取消事由に該当するものということはできない。

また、本件では、前記のとおり、第一審原告は、帳簿書類を第一審被告の所属係官に提示し、その検査を求めたのにもかかわらず、右係官は、当初から第一審原告に課税上の不利益処分を行うことを目的として、あえて第一審原告が提示した帳簿書類を検査しようとしなかったのである。

さらに、第一審被告は、荒川民商の高橋事務局員が立ち会っていたことを問題にしているが、前記のとおり、第一審被告の所属係官は、右高橋の存在について、「友人がいると思っている」と述べて、事実上黙認の態度に出たものであるし、また、右高橋は、第一審原告から依頼され、その申告の決算書を作成して、第一審原告の帳簿書類に精通しているのであるから、第一審原告の情報はもとより問題にならないし、取引の相手方を知って支障が生じるような事態は考えられないのみならず、税務職員に課せられるべき守秘義務の対象となる秘密は具体的なものであるから、帳簿書類を検査する前の段階において、具体的な秘密を要する事項にかかわりなく、当該納税者以外の者がいることを根拠にして、提示された帳簿書類の検査を拒否すべき理由は全くない。

(乙事件)

当事者双方の主張は、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから(ただし、「原告」とあるのを全て「第一審原告」に、「被告」とあるのを全て「第一審被告」に改める。)、これを引用する。

(丙事件)

当事者双方の主張は、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから(ただし、「原告」とあるのを全て「第一審原告」に、「被告」とあるのを全て「第一審被告」に、原判決別表順号6欄の「年月日」欄の「三・一二・二〇」を「四・二・二七」に改める。)、これを引用する。

第三証拠関係<略>

理由

第一甲事件

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  「原告」とあるのを全て「第一審原告」に、「被告」とあるのを全て「第一審被告」に改め、原判決一五枚目裏の五、六行目の各「原告」の前に「原審における」を加え、同行の「証人」を「原審証人」に改める。

二  同一七枚目表九行目表九行目の「原告側での対応」の次に「並びに同年三月二日、四日の佐藤統括官と第一審原告とのやりとり」を加え、同裏一行目冒頭から同四行目末尾までを次のとおり改める。

「(一) まず、昭和六一年九月九日の臨場調査の状況については、<証拠略>を総合すると、少なくとも次の事実が認められる。」

三  同一八枚目裏四行目の冒頭から同七行目末尾までを次のとおり改める。

「(二) 次に、昭和六二年二月一八日の臨場調査の状況については、<証拠略>を総合すると、少なくとも次の事実が認められる。」

四  同一九枚目裏二行目裏の「座った」の次に「(右各机の奥行はいずれも約六〇センチメートルであり、丸子調査官らと第一審原告らとの間隔は、ほぼ一・二メートルであった。)」を加え、同行の「(もっとも」から同三行目の「している。)」までを削る。

五  同二〇枚目表一行目の「その際、」の次に「丸子調査官は、灰皿を出させて煙草を吸い、」を加え、同九行目の次に改行して次のとおり加える。

「(6) その後、第一審原告は、昭和六二年二月二〇日付けで第一審被告宛てに内容証明郵便で質問書を送付し、その中で、二月一八日の丸子調査官の調査に言及し、「丸子調査官は机を叩き、大声を出し、恐ろしい思いをした」、「帳簿書類を用意し調査を受けようとしているのに、なぜ、このような酷い目に会わねばならないのか、回答してほしい」旨述べている。

(三) さらに、昭和六二年三月二日、四日の佐藤統括官と第一審原告とのやりとりの状況については、<証拠略>を総合すると、少なくとも次の事実が認められる。

(1)  佐藤統括官は、昭和六二年三月二日、第一審原告が調査を受ける意思があるか否かを確認するため第一審原告の事業所に臨場した。その際、第一審原告は、佐藤統括官から帳簿書類を見せるつもりはあるのかと聞かれ、その意思がある旨答え、帳簿書類を見せる日については同月四日までに第一審原告の方から連絡するということで別れた。

(2)  同月四日、第一審原告は佐藤統括官に電話をした。その際、第一審原告が、前記(二)(6)の質問書及び第一審原告から第一審被告宛の昭和六二年一月二八日の件についての質問書に回答してほしい旨要請したのに対し、佐藤統括官はこれを拒否し、このため、調査の日取りを決めないまま物別れとなった(佐藤証人は、第一審原告は、その際、「内容証明郵便で出したことについて文書で回答しなければ、帳簿は見せられない」「組織に入っているので組織の決めたことに従う」、「そのために、青色申告承認取消処分になっても仕方がない」旨述べたと証言するが、第一審原告は、これを否定するところであり、前記のとおり、第一審原告は、帳簿書類を見せるといっていたことや前記(二)の認定事実に照らし、そのまま信用するわけにはいかないというべきである。)」

六  同二一枚目表九行目の「調査に応じる態度を示していたのであるから」の次に次のとおり加える。

「(天内証人は、その時の状況につき、「第一審原告がその前に解決しなければならない問題があるといっていたので、帳簿等を実際に手に取って見た場合、そのことを理由にまた文句をつけられると思った」旨証言しているが、これは、あくまで天内証人の主観的な認識にすぎず、右認定判断を左右するものではない。)」

七  同裏一行目の「られるのである」の次に次のとおり加える。

「(なお、第一審被告は、昭和六二年二月一八日の調査の際、第一審原告は高橋事務局員の退席要求に応じなかったところ、第三者の立会いがあると守秘義務の関係から十分な調査ができないので右退席要求に応じないことをもって帳簿書類の不提示があったと解すべきである旨主張するが、前記2(二)の認定判断のとおり、第一審原告の方では、第一審被告係官の求めに応じて帳簿書類の入ったダンボール箱からその一部を取り出して机の上に置く等して、調査に応じる態度を示していたものであり、その際、高橋事務局員の立会いを認めなければ帳簿書類の提示を拒否するとの言動をとったものとは認められないから、第一審被告の右主張は採用できない。)」

第二乙事件

次のとおり訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  「原告」とあるのを全て「第一審原告」に、「被告」とあるのを全て「第一審被告」に、原判決七枚目裏一一行目を「二 本件各更正及び本件各賦課決定の適否について」に改める。

二  同九枚目表二行目の冒頭から同一一枚目表一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「3 第一審原告は、本件青色申告承認取消処分は違法であるからこれを前提にする本件各更正及び本件各賦課決定も違法であると主張するので判断する。

前記第一、二の認定判断のとおり、本件青色申告承認取消処分は違法として取消しを免れられないところ、本件各更正及び本件各賦課決定が本件青色申告承認取消処分を前提にして行われたことは前記のとおりであるから、右青色申告承認取消処分を違法として取り消す以上、本件各更正及び本件各賦課決定もまた、違法なものとして取り消されるべきである。」

第三丙事件

次のとおり訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  「原告」とあるのを全て「第一審原告」に、「被告」とあるのを全て「第一審被告」に、原判決五枚目表六行目を「本件更正及び本件賦課決定の適否について」に改める。

二  同裏一一行目の冒頭から同七枚目表一一行目末尾までを次のとおり改める。

「2 第一審原告は、本件青色申告承認取消処分は違法であるからこれを前提にする本件更正及び本件賦課決定も違法であると主張するので判断する。

前記第一、二の認定判断のとおり、本件青色申告承認取消処分は違法として取消しを免れないところ、本件更正及び本件賦課決定が本件青色申告承認取消処分を前提にして行われたことは前記のとおりであるから、右青色申告承認取消処分を違法として取り消す以上、本件更正及び本件賦課決定もまた、違法なものとして取り消されるべきである。」

第四結論

よって、甲事件、乙事件、丙事件とも、第一審原告の請求は理由があるから、甲事件については本件控訴を棄却し、乙事件及び丙事件については原判決を取り消して第一審原告の請求を認容することとし、甲事件の控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を、乙、丙事件の訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を各適用して、それぞれ主文のとおり判決する。

(裁判官 越山安久 武田正彦 桐ケ谷敬三)

【参考】甲事件第一審(東京地裁 平成元年(行ウ)第三七号・第七二号 平成三年一月三一日判決)

一 被告が昭和六二年三月一三日付けでした原告の昭和五八年分以降の所得税の青色申告の承認の取消処分を取り消す。

二 被告がいずれも昭和六二年三月一三日付けでした、原告の昭和五八年分の所得税の更正のうち総所得金額二九七万七五九二円、納付すべき税額一九万九二〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定、原告の昭和五九年分の所得税の更正のうち総所得金額三四一万二四三七円、納付すべき税額二六万五五〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定並びに原告の昭和六〇年分の所得税の更正のうち総所得金額三七四万九六一七円、納付すべき税額三〇万八〇〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも昭和六三年一一月八日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)、被告が昭和六二年七月三一日付けでした原告の昭和六一年分の所得税の更正のうち総所得金額二九五万七〇一七円、納付すべき税額一六万七三〇〇円を超える部分並びに被告が昭和六三年七月二九日付けでした原告の昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額二四〇万〇〇九七円、納付すべき税額一〇万五四〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

主文同旨

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告の確定申告等

原告は、東京都荒川区西日暮里六丁目一二番五号の事業所において印刷業を営み、その所得税につき被告から青色申告の承認を受けていた者であるが、被告に対し、昭和五八年分から同六二年分までの所得税について、いずれもその法定申告期限内に、昭和五八年分については総所得金額を二九七万七五九二円、納付すべき税額を一九万九二〇〇円とする、昭和五九年分については総所得金額を三四一万二四三七円、納付すべき税額を二六万五五〇〇円とする、昭和六〇年分については総所得金額を三七四万九六一七円、納付すべき税額を三〇万八〇〇〇円とする、昭和六一年分については総所得金額を二九五万七〇一七円、納付すべき税額を一六万七三〇〇円とする、昭和六二年分については総所得金額を二四〇万〇〇九七円、納付すべき税額を一〇万五四〇〇円とする各青色申告書による確定申告をした。

2 被告の処分

ところが、被告は、原告に対し、昭和六二年三月一三日付けで、所得税法一五〇条一項一号の規定に該当するとの理由で、原告の昭和五八年分以後の所得税の青色申告の承認を取り消すとの処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をするとともに、これに伴い、同日付けで、原告の昭和五八年分の所得税について、総所得金額を三九五万七五九二円、納付すべき税額を三五万八九〇〇円とする更正(以下「本件更正<1>」という。)及び加算税額を七五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定<1>」という。)を、昭和五九年分の所得税について、総所得金額を五六二万四四三七円、納付すべき税額を七〇万八五〇〇円とする更正(以下「本件更正<2>」という。)及び加算税額を二万二〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定<2>」という。)を、昭和六〇年分の所得税について、総所得金額を五五〇万六五一七円、納付すべき税額を六五万七五〇〇円とする更正(以下「本件更正<3>」という。)及び加算税額を一万七〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定<3>」という。)をそれぞれ行い、また、昭和六二年七月三一日付けで、昭和六一年分の所得税について、総所得金額を四六〇万七〇一七円、納付すべき税額を四三万三二〇〇円とする更正(以下「本件更正<4>」という。)を、昭和六三年七月二九日付けで、昭和六二年分の所得税について、総所得金額を三九〇万〇〇九七円、納付すべき税額を二九万七五〇〇円とする更正(以下「本件更正<5>」という。)及び加算税額を一万九〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定<4>」という。)を、それぞれ行った(以下、本件更正<1>から<5>までを総称して「本件更正」、本件決定<1>から<4>までを総称して「本件決定」という。)。

3 原告の異議申立て

原告は、被告に対し、昭和六二年三月三一日、本件青色申告承認取消処分並びに本件更正<1>から<3>まで及び本件決定<1>から<3>までについて異議申立てをしたが、被告は、昭和六二年六月三〇日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。また、原告は、被告に対し、昭和六二年九月二二日、本件更正<4>について異議申立てをしたが、被告は、昭和六二年六月三〇日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定をし、更に、原告は、被告に対し、昭和六三年八月一六日、本件更正<5>及び本件決定<4>について異議申立てをしたが、被告は、昭和六三年一一月一〇日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

4 原告の審査請求

原告は、国税不服審判所長に対し、昭和六二年七月二二日、本件青色申告承認取消処分並びに本件更正<1>から<3>まで及び本件決定<1>から<3>までについて審査請求をし、これに対し、同所長は、昭和六三年一一月八日付けで、本件更正<3>の総所得金額五三〇万九六一七円、納付すべき税額六〇万九六〇〇円を超える部分及び本件決定<3>の加算税額一万五〇〇〇円を超える部分をそれぞれ取り消したが、そのその余の審査請求をすべて棄却する旨の裁決をした。また、原告は、同所長に対し、昭和六二年一二月二八日、本件更正<4>について審査請求をしたが、同所長は、昭和六三年一一月八日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、更に、原告は、同所長に対し、昭和六三年一一月一四日、本件更正<5>及び本件決定<4>について審査請求をしたが、同所長は、平成元年二月二八日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

5 本件各処分の違法

しかしながら、本件青色申告承認取消処分並びに本件更正及び本件決定は、いずれも違法であるから、原告は、請求の趣旨に記載したとおり、その取消しを求める。

二 請求原因に対する認否

請求原因1から4までの事実は認める。

三 本件各処分の根拠に関する被告の主張

1 本件各処分の前提となった税務調査の経緯

(一) 被告は、原告は印刷業を開業して以来長期間その所得税について調査を行っていなかったことから、帳簿書類の備付け状況及び所得金額を確認するために調査を行う必要を認め、被告所属の上席調査官丸子和良(以下「丸子調査官」という。)に調査を命じた。

(二) 丸子調査官の調査の経緯は、次のとおりである。

(1) 丸子調査官は、昭和六一年七月二三日を初めとして、何度か原告の事業所に調査のため臨場したが、原告が不在であったり、あるいは原告の多忙を理由に調査に応じてもらうことができず、その後、九月三日になって、ようやく原告から、同月九日午後三時からの調査に応ずる旨の回答を得るに至った。

(2) そこで、丸子調査官が同日原告の事業所に臨場したところ、そこには荒川民主商工会(以下「荒川民商」という。)の事務局長ら原告の事業に関係のない者数名が待機していた。丸子調査官は原告に対して右の者らを退席させるよう求めたが、原告はこれに応ぜず、また、右事務局長らも丸子調査官に対し、「臨席してはいけない法律があるか」、「調査理由は何だ」などと言って退席しようとしなかった。そこで、丸子調査官は、このような状況の下ではそれ以上の調査の進展は望めないものと判断し、原告に対して、調査に対する協力と次回の調査日の連絡を依頼してその場を辞去した。

(3) その後も、丸子調査官からの連絡に対して、原告の方では、調査の席への民商の事務局長らの立会や調査理由の説明を要求するなどしていたが、翌昭和六二年二月一六日になって、同月一八日午後一時から調査を行うことを原告が了承するに至った。

(4) 同日、丸子調査官が被告所属の調査官天内洋(以下「天内調査官」という。)を同行して原告の事業所に臨場したところ、原告のほかに荒川民商の高橋事務局員が待機していた。この日も、原告は、丸子調査官に対して調査理由を説明することを要求し、右高橋事務局員を退席させるようにとの要求にも応じようとしなかった。更に、丸子調査官が帳簿を提示するように求めたのに対して、原告はダンボール箱に収納された状態の帳簿を指し示すのみで、それを箱から取り出して見せようとはしなかった。そこで、丸子調査官及び天内調査官は、それ以上調査が進展しないものとして、原告の事業所を辞去せざるを得なかった。

(5) その後、三月二日、被告所属の佐藤統括官が帳簿書類を提示する意思が原告にあるか否かを確認するため原告の事業所に臨場した際にも、原告は、かねて原告が被告のもとに提出していた質問書に対して文書で回答しない限り帳簿書類は見せないとして、被告からの帳簿の提出要求に応じようとしなかった。

2 本件青色申告承認取消処分の適法性

(一) 所得税法は、帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法一四八条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告承認の取消事由としている(同法一五〇条一項一号)。これは、納税者の帳簿書類について税務署長が同法二三四条の規定に基づく調査をなし得ることを前提として、その調査により帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることを確認することができた場合にのみ青色申告承認による特典を与えるとの趣旨に出たものであるから、青色申告者が右帳簿書類の調査にいわれなく応じないため、その備付け、記録及び保存が正しく行われていることを税務署長が確認することができないときも、同法一五〇条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当するものと解すべきである。

(二) これを本件についてみると、前記のとおり、原告は、被告からの度重なる帳簿書類の提示要請にもかかわらず、これを提示せず、そのため、被告は、原告の帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われているか否かを確認することができなかったのであるから、原告の右行為は所得税法一五〇条一項の取消事由に該当するものというべきである。したがって、被告がこれを理由にした本件青色申告承認取消処分は適法である。

3 本件更正の適法性

(一) 原告の昭和五八年分から昭和六二年分までの所得税の総所得金額は、次のとおりである。

(1) 昭和五八年分の所得税について

<1> 申告総所得金額            二九七万七五九二円

<2> 加算金額               一三八万〇〇〇〇円

本件青色申告承認取消処分の結果、原告は、いわゆる白色申告者となるから、青色申告者が享受できる特典は受けられないこととなる。したがって、原告が昭和五八年分の総所得金額の計算に当たり計上した青色専従者給与の額一二八万円及び青色申告控除の額一〇万円の合計額一三八万円は、右申告金額に加算されることになる。

<3> 減算金額                四〇万〇〇〇〇円

本件青色申告承認取消処分の結果、原告が青色事業専従者としていた原告の妻に係る事業専従者控除額四〇万円は、右申告金額から減算されることになる。

<4> 総所得金額(<1>+<2>-<3>) 三九五万七五九一円

(2) 昭和五九年分の所得税について

<1> 申告総所得金額            三四一万二四三七円

<2> 加算金額               二六六万二〇〇〇円

前同様に、青色専従者給与の額一六八万円、中小企業者の機械等の特別償却費八八万二〇〇〇円及び青色申告控除の額一〇万円の合計額二六六万二〇〇〇円は、右申告金額に加算される。

<3> 減算金額                四五万〇〇〇〇円

前同様に、事業専従者控除額四五万円は、右申告金額から減算される。

<4> 総所得金額(<1>+<2>-<3>) 五六二万四四三七円

(3) 昭和六〇年分の所得税について

<1> 申告総所得金額            三七四万九六一七円

<2> 加算金額               二〇一万〇〇〇〇円

前同様に、青色専従者給与の額一九一万円及び青色申告控除の額一〇万円の合計額二〇一万〇〇〇〇円は、右申告金額に加算される。

<3> 減算金額                四五万〇〇〇〇円

前同様に、事業専従者控除額四五万円は、右申告金額から減算される。

<4> 総所得金額(<1>+<2>-<3>) 五三〇万九六一七円

(4) 昭和六一年分の所得税について

<1> 申告総所得金額            二九五万七〇一七円

<2> 加算金額               二一〇万〇〇〇〇円

前同様に、青色専従者給与の額二〇〇万円及び青色申告控除の額一〇万円の合計額二一〇万〇〇〇〇円は、右申告金額に加算される。

<3> 減算金額                四五万〇〇〇〇円

前同様に、事業専従者控除額四五万円は、右申告金額から減算される。

<4> 総所得金額(<1>+<2>-<3>) 五三〇万九六一七円

(5) 昭和六二年分の所得税について

<1> 申告総所得金額            二四〇万〇〇九七円

<2> 加算金額               二一〇万〇〇〇〇円

前同様に、青色専従者給与の額二〇〇万円及び青色申告控除の額一〇万円の合計額二一〇万〇〇〇〇円は、右申告金額に加算される。

<3> 減算金額                六〇万〇〇〇〇円

前同様に、事業専従者控除額六〇万円は、右申告金額から減算される。

<4> 総所得金額(<1>+<2>-<3>) 三九〇万〇〇九七円

(二) 以上のとおり、原告の総所得金額は、昭和五八年分が三九五万七五九二円、昭和五九年分が五六二万四四三七円、昭和六〇年分が五三〇万九六一七円、昭和六一年分が四六〇万七〇一七円、昭和六二年分が三九〇万〇〇九七円となり、本件更正に係る総所得金額は、いずれもこれと同額(昭和六〇年分については、昭和六三年一一月八日付けの裁決に係る総所得金額と同額)であるから、本件更正は適法である。

4 本件決定の適法性

右のとおり適法な本件更正を前提として行われた本件決定も適法である。

四 被告の主張に対する原告の認否及び反論

1 被告の主張1(税務調査の経緯)について

(一) (一)の事実は知らない。

原告は、昭和四八年以来、自らの印刷業の事業について、適式な帳簿書類の備付け、記録、保存をし、これに基づいて所得税の青色申告を行ってきたものであって、原告の申告は適正なものであり、その内容が誤りであることを推認させるような事実はない。また、所得金額の確認という口実は、税務調査のための質問検査権の行使の理由とはなり得ない。

(二) (二)について

(1) (1)の事実は認める。もっとも、丸子調査官は、何らの事前通知もなく突然原告方に臨場し、その際、原告は、業務が多忙を極めていたため、その旨を丸子調査官に伝えたにすぎない。

(2) (2)の事実のうち、昭和六一年九月九日に丸子調査官が原告の事業所に臨場したこと、その際、荒川民商の事務局長らが在席していたことは認める。

原告は、当日、作業所に机を据え、そのまわりに椅子を配置し、帳簿書類を入れたダンボール箱を用意して丸子調査官を迎えたのである。立会人については、丸子調査官は、はじめは難色を示したものの、強いて退席を求めようとはしなかった。原告が調査の理由を尋ねたところ、丸子調査官が「所得の確認」とだけ答えたので、もっと具体的な理由を教えてくれるよう求めたことはある。また、丸子調査官の「記帳しているか」との問に対して、原告は前記のダンボール箱を示している。また、丸子調査官は、日を改めて調査させてもらうといって退去したが、帰り際に原告に対し「次回に二人だけならば具体的な調査理由を教える」と述べている。

(3) (3)の事実は認める。もっとも、原告は、その間、丸子調査官に対し、帳簿書類は全部あるので見せる旨を電話等で伝えている。

(4) (4)の事実のうち、昭和六二年二月一八日に丸子調査官が天内調査官を同行して原告の事業所に臨場したこと、その場に高橋事務局員が立ち会っていたことは認める。

当日、原告は、ダンボール箱に入れた帳簿書類全部を展示して、丸子調査官に応接している。また、高橋の立会については、丸子調査官は「あなたの友人がいると思っている」と答え、事実上その立合を認めていた。ところが、その後、丸子調査官は、にわかに興奮し、「帳簿を見せるのか見せないのか」と居丈高になって机を叩いたため、驚いた高橋事務局員がダンボール箱から帳簿書類を出して、丸子調査官の方に向けて広げて見せたのに、丸子調査官は、「検査というものは私の手の上に置いて見える状態にしないと駄目だ」と言い残し、天内調査官を促して、退去してしまった。結局、丸子調査官は、原告が適式な帳簿書類を備え付けているのを確認しながら、それをあえて検査しようとせず、逆に原告の責任で検査できなかったかのような口実を作ることに汲々としていたのである。

(5) (5)の事実のうち、三月二日に佐藤統括官が原告の事業所に臨場したことは認めるが、その余の事実は否認する。

佐藤統括官が原告の事業所に臨場した目的は調査ではなく、「帳簿書類を提示する意思があるかどうかを確認したい」ということであったので、原告は「提示するつもりである」と伝えている。

2 被告の主張2(本件青色申告承認取消処分の適法性)について

被告の右主張は争う。

所得税法一五〇条一項一号の文理上、被告のいう調査に協力しなかったことが、直ちに帳簿書類の備付け、記録、保存が法の定めるところに従って行われていないとの青色申告承認取消事由に該当するものということはできない。

また、本件では、前記のとおり、原告は、帳簿書類を被告の職員に提示し、その検査を求めたのにもかかわらず、被告の職員は、当初から原告に課税上の不利益処分を行うことを目的として、あえて原告が提示した帳簿書類を検査しようとしなかったのである。

3 被告の主張3(本件更正の適法性)について

(一)の事実については、本件青色申告承認取消処分が適法であるとした場合の所得金額が被告主張のようになることは認める。同(二)は争う。

4 被告の主張4(本件決定の適法性)について

被告の右主張は争う。

五 本件各処分のその他の違法事由に関する原告の主張

1 本件青色申告承認取消処分について

(一) 被告が原告に送達した本件青色申告承認取消処分の通知書には、所得税法一五〇条二項の規定が定める趣旨に沿う十分な理由が付記されていないから、右処分は、この点からしても違法である。

(二) 被告の原告に対する前記調査は、税務調査と質問検査の客観的必要性を欠くうえ、事前通知、調査理由の告知をあえて行わないなど、その方法においても社会的相当性を欠いており、所得税法二三四条一項の規定による質問検査権の行使の適法要件を具備していないから違法である。したがって、本件青色申告承認取消処分は、右のような違法は調査に基づく処分としても違法である。

(三) 被告は、かねてから荒川民商を敵視し、その組織破壊を意図していたが、その方針の一環として、荒川民商に加盟している原告を税務調査の対象とし、強いて口実を設けて本件青色申告承認取消処分を行ったものである。したがって、本件青色申告承認取消処分は、前記のとおり処分の個別的な適法用件を欠くばかりでなく、荒川民商の結社権を侵害する性格を有し、他事考慮に基づくものであることが明らかであるから、この点からしても違法である。

2 本件更正及び本件決定について

本件更正<1>から<3>まで及び本件決定<1>から<3>までの各通知書が原告のもとに到達し原告がこれを披見した時点では、原告は、未だ本件青色申告承認取消処分の通知を受けていない。そうすると、右の時点では原告は青色申告者として扱われるべきところ、青色申告に対して更正を行う場合には所得税法一五五条二項の規定が定める理由付記を要するものと解すべきであるから、この理由付記を欠く右の各処分は違法である。

六 右原告の主張に対する被告の認否

原告の主張事実中、被告の係官が調査に当たって事前通知を行わなかったことは認め、原告が荒川民商に加入していることは知らない。その余の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠<略>

理由

一 本件各処分の存在等について

請求原因1(原告の確定申告等)、同2(被告の処分)、同3(原告の異議申立て)及び同4(原告の審査請求)の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

二 本件青色申告承認取消処分の適否について

1 本件では、<証拠略>によると、本件青色申告承認取消処分の当時、原告のもとでは、昭和五八年から同六〇年までの事業について、所要の帳簿書類を備え付けてこれに事業所得の金額に係る取引を記録し、かつ、右の帳簿を保存していたことがうかがえる。原告は、まず、このことを理由に、原告については、所得税法一五〇条一項一号が青色申告承認の取消事由としている「帳簿書類の備付け、記録又は保存が適法に行われていないこと」との事実が存在しないから、本件青色申告承認取消処分は違法なものであるとするのである。

しかしながら、被告の主張するとおり、青色申告者が所得税法一四八条一項所定の帳簿書類の提示を拒否したため、その備付け、記録及び保存が正しく行われているか否かを税務署長が確認することができないときも、同法一五〇条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当するものと解するのが相当である。というのは、そもそも青色申告制度は、納税義務者が自己の記録、保存している正確な帳簿書類を基礎として納税申告を行うことを奨励することにより、申告納税制度が適正に機能することを目的とする制度であるから、納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われているとともに、その点を税務当局が的確に確認できるということが、その制度の当然の前提となっているものと考えられるところ、青色申告の承認を受けている納税義務者が正当な理由がないのに当該帳簿書類を税務当局に提示することを拒否したような場合は、たとえ客観的には当該納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われていたとしても、税務当局がその点を確認することができない以上、やはり青色申告制度の前提自体が欠けることとなるものといわざるを得ないからである。

もっとも、右のような青色申告承認の取消事由が法規上明文をもっては規定されていないこと、また青色申告承認取消処分が納税者に対して一定の不利益を課する処分であること等からすれば、右のような取消事由の認定に当たっては、一定の慎重さが要求されるものというべきである。すなわち、納税義務者の帳簿書類の提示拒否の事実の有無は、一定の時点においてのみ判断されるべきものではなく、税務当局の行う調査の全過程を通じて、税務当局側が帳簿の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったと考えられる場合に、右のような取消事由の存在が肯定されるものと考えるのが相当である。

2 右のような考え方に立って、本件で原告に青色申告承認の取消事由となるような帳簿書類の提示拒否の事実があったか否かについて考えると、前記の当事者双方の主張に現れた本件に関する税務調査の経緯からして、昭和六一年九月九日及び翌昭和六二年二月一八日の各臨場調査の際の原告側での対応が右の帳簿書類の提示拒否に当たるといえるか否かが問題となるところである。

(一) まず、昭和六一年九月九日の臨場調査の状況は<証拠略>によれば、おおむね次のようなものであったことが認められる。

(1) 同日の調査は、原告が九月三日の日に丸子調査官に対して九日の午後三時から調査に応ずる旨を連絡し、丸子調査官がこれを応諾したうえ、同時刻に原告の事務所に臨場して行われたものである。

(2) 当日、原告は、調査を受ける準備として、調査の際に使用される机の上を片付け、資料等が汚れないようにするためにその机の上に白い紙を敷き、椅子を用意した。また、昭和五八年分から昭和六〇年分までの帳簿書類の入っているダンボール箱は、壁際の棚の上に乗せた状態になっていた。更に、原告の方では、前もって荒川民商の小泉支部長等に当日の調査の立会いを依頼してあったため、丸子調査官が臨場した際、原告の事業所には、原告のほか、小泉支部長、高橋事務局員等数人の者が待機しており、また、椎橋事務局長等も少し遅れて原告の事業所にやって来た。

(3) 丸子調査官は、小泉支部長等に対して退席を求めたが、原告は、「私から頼んで来てもらっている」と言って、その要求に応じず、小泉支部長等も退席しようとしなかった。また、原告等が丸子調査官に対して調査の理由を説明するよう要求し、これに対する丸子調査官の所得の確認をするためとの説明に納得せず、更に詳しい説明を求めるなどのやりとりが繰り返された。なお、この間、前記帳簿書類の入っているダンボール箱は机の上に置かれたままの状態であった。約二時間を経過した時点で、丸子調査官は、このような状況では調査の進展は望めないものと判断し、調査を打ち切って原告の事業所を退去した。

(二) 次に、昭和六二年二月一八日の臨場調査の状況は、<証拠略>によれば、おおむね次のようなものであったことが認められる。

(1) 同日の調査は、前回の調査の後、丸子調査官と原告との間で、一方からの調査希望日や希望時間を他方が了承しないといったやりとりがあり、また、丸子調査官からの帳簿書類を預からせてもらいたいとの求めを原告が断るといったことがあった後、二月一六日に、両者の間で、二月一八日午後一時から丸子調査官の他にもう一人が加わって調査を行うとの了解が成立し、これによって行われたものである。

(2) 原告は、同日は、調査の準備のため早朝から事業所に赴き、机の上を整理し、ダンボール箱に入った帳簿書類を棚から下ろしておくなどの準備を整えた後、得意先回りに出かけ、午後一時ころ事業所に戻った。また、立会人ついては、今回は、原告の決算書等の書類の作成を手伝った高橋事務局員のみに調査の立会いを依頼しておいたので、高橋事務局員だけが原告の事業所に午後一時前に来て待機していた。

(3) 午後一時ころ、丸子調査官が天内調査官を同行して原告の事業所に臨場した。丸子調査官と天内調査官は、原告が調査のために準備した机(二つの机を並べたもの)の前に並んで座り、その反対側に原告と高橋事務局員が座った。その机の上(もっとも、天内証人は、机の脇の棚の上であったと証言している。)には帳簿書類の入ったダンボール箱が三個置いてあり、それぞれ昭和五八年分、昭和五九年分、昭和六〇年分との表示がされていた。

(4) その後、原告と丸子調査官との間では、高橋事務局員の立会をめぐるやりとりや、調査の理由をめぐるやりとりがあったが、丸子調査官からの帳簿の提示の要求に対しては、原告は、前期のとおり帳簿書類の入っていたダンボール箱を示して「帳面はここに全部揃っている」と言い、また、高橋事務局員は、そのダンボール箱から帳簿書類や伝票類を一部取り出して見せて「ほら、ここにある」と言って机の上に置いたりした。また、その際、丸子調査官の言動に関して高橋事務局員が荒川民商事務局に連絡の電話をかけ、更に、高橋事務局員から丸子調査官に対して「机を叩かないでくれ」との抗議が出されたということもあったことが認められ、これらの事実からすれば、当日の丸子調査官の言動には、冷静さを欠く点があったのではないかとも推認されるところである。

(5) 結局、当日も、丸子調査官は、なお調査ができないものとして、一時二〇分ころには、天内調査官を促して席を立ち、原告の事業所を退去してしまった。

3 右に認定したような二回にわたる臨場調査の状況からすると、荒川民商の事務局員数名が立ち会い、その立会の許否や調査理由の明示をめぐるやりとりに終始して二時間もの時間を経過してしまったという六一年九月九日の調査についてはともかく、現に帳簿書類の入ったダンボール箱が準備され、その一部については原告側が箱から取り出して机の上に提示して見せるといった行為まで行われているのに、約二〇分間という短時間で被告側が調査を切り上げてしまった六二年二月一八日の調査については、その際、被告側係官において、ある程度の時間をかけて冷静な態度で調査を継続し、原告のもとで所要の帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われているか否かを確認しようとしていれば、これを確認することが可能な状況があったのではないかとの疑いを否定できないものというべきである。

確かに、右の二月一八日の調査の際にも、荒川民商の高橋事務局員一人はその場に立ち会っていること、前回の九月九日の調査の際には荒川民商事務局員の立会の許否の問題や調査理由の明示の問題をめぐるやりとりのみで時間を経過してしまっており、当日もまず冒頭ではこれと同じようなやりとりが行われていること等からして、被告側係官としては、当日の調査についても、原告側の協力を容易に得られないものと判断したことにも無理からぬところがあるものと考えられる。しかし、少なくとも右二月一八日の調査に限っていえば、原告の方では、前回とは異なり、立会人を直接原告の決算書類の作成を手伝っていた高橋事務局員のみとし、被告係官の求めに応じて帳簿書類の入ったダンボール箱からその一部を取り出して机の上に置く等して、調査に応じる態度を示していたのであるから、被告係官において、短時間でその場から退去することなくそのまま調査を続けていれば、所要の帳簿書類の備付け等が正しく行われているか否かを確認できたのではないかとも考えられるのである。

そうすると、本件青色申告承認取消処分については、被告がその処分理由として主張する事実の存在を肯定することに疑問があることとなるから、その余の点について判断するまでもなく、右処分は、違法として取消しを免れないこととなる。

三 本件更正及び本件決定の適否について

本件更正及び本件決定が本件青色申告承認取消処分を前提として行われたものであることは前記のとおりであるから、右青色申告承認取消処分を違法として取り消すべき以上、本件更正及び本件決定もまた、違法なものとして取り消されるべきである。

四 結語

よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 涌井紀夫 市村陽典 小林昭彦)

【参考】乙事件第一審(東京地裁 平成三年(行ウ)第四八号・第一二七号 平成三年一二月一一日判決)

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨

1 被告が原告の昭和六三年分所得税について、平成元年九月二九日付けでした更正のうち総所得金額二四七万六二四九円、納付すべき税額一一万八〇〇〇円を超える部分及び平成二年二月一九日付けでした過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2 被告が原告の平成元年分所得税について、平成二年七月三一日付けでした更正にうち総所得金額三一二万八六二一円、納付すべき税額一二万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告の昭和六三年分所得税について、原告が青色の申告書によってした確定申告、被告がした更正(以下「六三年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「六三年分賦課決定」といい、六三年分更正と併せて「六三年分各処分」という。)並びに六三年分更正に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表一記載のとおりである。

2 原告の平成元年分所得税について、原告が青色の申告書でした確定申告、被告がした更正(以下「元年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「元年分賦課決定」といい、元年分更正と併せて「元年分各処分」という。)並びに元年分各処分に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表二記載のとおりである。

3 六三年分更正及び元年分更正(以下「本件各更正」という。)はいずれも右各年分の原告の所得を過大に認定してされたものであるから違法であり、本件各更正を前提とする六三年分賦課決定及び元年分賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)も違法である。

よって、原告は、本件各更正及び本件各賦課決定の各取消しを求める。

二 請求原因に対する認否

請求原因1及び2の各事実は認める。

三 抗弁

1 六三年分更正の適法性

原告の昭和六三年分の所得税に係る総所得金額及びその算出の根拠は次のとおりである。

(一) 申告総所得金額 二四七万六二四九円

原告が確定申告書に記載した総所得金額(事業所得の金額)である。

(二) 加算金額    二一〇万〇〇〇〇円

原告は、昭和六三年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、原告の妻春日えみ子(以下「えみ子」という。)に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除した。

しかし、被告は、昭和六二年三月一三日付けで、所得税法(以下「法」という。)一五〇条一項一号に基づき、原告の昭和五八年分以降の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をしたから、原告は同年分以降青色申告者に対する特典である青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができない。そこで、右青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除額の控除を否認して、右各金額を申告総所得金額に加算したものである。

(三) 減算金額     六〇万〇〇〇〇円

本件青色申告承認取消処分がされたことに伴い、原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額を認容して、これを申告総所得金額から減算したものである。

(四) 総所得金額   三九七万六二四九円

右(一)の金額に、右(二)の金額を加え、右(三)の金額を減じた金額である。

以上のとおり、原告の昭和六三年分の総所得金額は三九七万六二四九円であり、六三年分更正に係る総所得金額と同額であるから、六三年分更正は適法である。

2 元年分更正の適法性

原告の平成元年分の所得税に係る総所得金額及びその算出の根拠は次のとおりである。

(一) 申告総所得金額 三一二万八六二一円

原告が確定申告書に記載した総所得金額(事業所得の金額)である。

(二) 加算金額    二一〇万〇〇〇〇円

原告は、平成元年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したが、右1の(二)のとおり、原告は青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができないから、右青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除額の控除を否認して、右各金額を申告総所得金額に加算したものである。

(三) 減算金額     八〇万〇〇〇〇円

右1の(三)と同様、えみ子に係る事業専従者控除額を認容して、これを申告総所得金額から減算したものである。

(四) 総所得金額   四四二万八六二一円

右(一)の金額に、右(二)の金額を加え、右(三)の金額を減じた金額である。

以上のとおり、原告の平成元年分の総所得金額は四四二万八六二一円であり、元年分更正に係る総所得金額と同額であるから、元年分更正は適法である。

3 六三年分賦課決定の適法性

六三年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一五万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万五〇〇〇円を賦課した六三年分賦課決定は適法である。

4 元年分賦課決定の適法性

元年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一三万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万三〇〇〇円を賦課した平成元年分賦課決定は適法である。

四 抗弁に対する原告の認否及び主張

1(一) 抗弁1(六三年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実は認める。

(二) 同(二)(加算金額)のうち、原告が昭和六三年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したこと、被告が本件青色申告承認取消処分をしたことは認め、主張は争う。

(三) 同(三)(減算金額)のうち、原告が従来えみ子を青色事業専従者としていたことは認め、主張は争う。

(四) 同(四)の主張は争う。

2(一) 同2(元年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実は認める。

(二) 同(二)(加算金額)のうち、原告が平成元年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したことは認め、主張は争う。

(三) 同(三)(減算金額)の主張は争う。

(四) 同(四)の主張は争う。

3 同3(六三年分賦課決定の適法性)及び4(元年分賦課決定の適法性)の主張は争う。

4 原告の主張

(一) 被告は法一五〇条一項一号に基づくものとして本件青色申告承認取消処分をしたが、原告は、法一四八条一項に従って帳簿書類の備付け、記録及び保存をしていたから、法一五〇条一項一号に該当する事実は存在しない。

仮に、本件青色申告承認取消処分が、被告所部職員による所得税調査の際に原告が帳簿書類を提示しなかったとの理由によるものであるとしても、法一五〇条一項一号の文理上、かかる事由が同号に該当するものではない。のみならず、原告は被告所部職員による調査の際、帳簿書類を同職員に提示したにもかかわらず、同職員は、当初から原告に対し不利益な処分をすることを目的として、敢えてこれを検査しようとせず、粗暴な振舞いに及んだ末勝手に辞去したものである。

したがって、本件青色申告承認取消処分は違法であるから、これを前提とする本件各更正も違法である。

(二) また、税務署長が、青色の申告書による所得税の確定申告に対し、青色申告承認取消処分がされているとして更正をする場合には、これに先行する青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務があると解すべきである。特に、本件では、原告は、本件青色申告承認取消処分が違法であるとして不服申立てをし、さらにその取消しの訴えを提起していたところ、平成三年一月三一日東京地方裁判所において、本件青色申告承認取消処分等を取り消す旨の判決がされているから、かかる審査をしていれば、本件青色申告承認取消処分が違法であることが判明したはずである。したがって、本件各更正には、これに先行する本件青色申告承認取消処分が適法かどうかの審査を怠った違法がある。

理由

一 請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二 本件各更正の適否について

1 抗弁1(六三年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)のうち、原告が昭和六三年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したこと、及び、被告が本件青色申告承認取消処分をしたこと、同(三)(減算金額)のうち、原告が従来えみ子を青色事業専従者としていたことは、当事者間に争いがない。そして、右のとおり、被告が本件青色申告承認取消処分をしたのであれば、原告は昭和五八年分以降青色申告者に対する特典である青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができず、また、これに伴って原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額の控除を受けるべきこととなるから、原告の昭和六三年分の所得税に係る総所得金額は抗弁1の(四)のとおり三九七万六二四九円と算出され、右金額は六三年分更正に係る総所得金額と同額である。

2 抗弁2(元年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)のうち、原告が平成元年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したことは、当事者間に争いがない。そして、右1のとおり、被告が本件青色申告承認取消処分をしたのであれば、右1と同様に原告は青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができず、また、これに伴ってえみ子に係る事業専従者控除額の控除を受けるべきこととなるから、原告の平成元年分の所得税に係る総所得金額は抗弁2の(四)のとおり四四二万八六二一円と算出され、右金額は元年分更正に係る総所得金額と同額である。

3 原告は本件青色申告承認取消処分が違法であるからこれを前提とする本件各更正も違法であると主張する。

しかし、処分の取消訴訟において、先行行為の要件についての瑕疵を後行行為の違法事由として主張することができるのは、先行行為と後行行為とが一連の行為として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるような場合に限られるものと解される。

しかるところ、青色申告承認取消処分は、納税義務者に対し各種の特典を伴う青色の申告書によって申告することができる資格を付与する青色申告承認処分を取り消すことによって、その取消原因の存する年度に溯及して右の資格を喪失させる処分である(法一四三条、一五〇条一項)から、納税義務者の資格に関する処分あるいは納税申告の方法を規制する処分ということができる。他方、所得税の更正は、申告書の提出があった場合において、これに記載された課税標準又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他課税標準又は税額等が税務署長の調査したところと異なるときに、税務署長が、申告書の記載を是正してその課税標準又は税額等を確定する処分である(法一五四条一項、国税通則法二四条)。そして、法律上青色申告承認取消処分がされたからといって必ず課税標準等が変動するというものではなく、青色申告承認取消処分をしたときは常に所得税を更正しなければならない建前ともなっていない。そうすると、青色申告承認取消処分と所得税の更正とは、これらが一連の処分として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるとはいえないから、所得税の更正の取消しを求める訴訟において、その取消原因として、当該更正に先行する青色申告承認取消処分の違法事由を主張することはできない。

したがって、原告の右主張はそれ自体失当である。

4 原告は、また、青色の申告書による所得税の確定申告に対し、税務署長が、青色申告承認取消処分がされているとして更正及び加算税賦課決定をする場合には、これに先行する青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務があるものと解すべきであるから、これを前提として、本件各更正にはこれに先行する本件青色申告承認取消処分が適法かどうかの審査を怠った違法があると主張する。

しかし、青色の申告書による所得税の確定申告に対し青色申告承認取消処分がされているとして更正をする場合において、右青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務を税務署長に課した法令の規定は存在しない。のみならず、青色申告承認取消処分は、所得税の更正とは別個の独立した処分であり、かつ、右2のとおり、仮に先行する青色申告承認取消処分に瑕疵があっても、これによって所得税の更正が違法となるものではないから、税務署長の右の更正をする場合において、これに先行する青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務を負うものではないというべきであって、このことは、青色申告承認取消処分につき不服申立てがされ、又は取消しの訴えが提起されていたとしても、変わるものではない。

したがって、原告の右主張もそれ自体が失当である。

5 そうすると、本件各更正はいずれも適法である。

三 本件各賦課決定の適否について

1 六三年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一五万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万五〇〇〇円を賦課した六三年分賦課決定は適法である。

2 元年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一三万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万三〇〇〇円を賦課した元年分賦課決定は適法である。

四 結語

以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中込秀樹 石原直樹 長屋文裕)

【参考】丙事件一審判決(東京地裁 平成四年(行ウ)第八九号 平成四年一〇月一日判決)

主文

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨

1 被告が原告の平成二年分所得税について平成三年五月二八日付けでした更正のうち総所得金額三五二万八七四五円、納付すべき税額一六万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告の平成二年分所得税(以下「本件所得税」という。)について、原告のした確定申告、被告のした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)並びに右各処分に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表記載のとおりである。

2 原告は、本件更正のうち総所得金額三五二万八七四五円、納付すべき税額一六万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定に不服があるから、その取消しを求める。

二 請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実は認める。

三 抗弁

1 本件更正の適法性

本件所得税に係る総所得金額及びその算出の根拠は以下のとおりである。

(一) 申告総所得金額 三五二万八七四五円

右金額は、原告が確定申告書に記載した総所得金額(事業所得の金額)である。

(二) 加算金額        二二〇万円

原告は、本件所得税の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、その妻である春日えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二一〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除した。

しかしながら、被告は、昭和六二年三月一三日付けで、所得税法(以下「法」という。)一五〇条一項一号に基づき、原告の昭和五八年分以降の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をしたから、原告は、同年分以降青色申告者に対する特典である青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができない。そこで、青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除額の控除を否認して、これを申告総所得金額に加算すべきこととなる。

右金額は、右の必要経費に算入された青色事業専従者給与の額と青色申告控除額との合計額である。

(三) 減算金額         八〇万円

本件青色申告承認取消処分がされたことに伴い、原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額を認容して、これを申告総所得金額から減算すべきこととなる。

右金額は、えみ子に係る事業専従者控除額である。

(四) 総所得金額   四九二万八七四五円

右金額は、右(一)の金額に、右(二)の金額を加え、右(三)の金額を減じた額である。

以上のとおり、原告の平成二年分の総所得金額は四九二万八七四五円であり、本件更正に係る金額と同額であるから、本件更正は適法である。

2 本件賦課決定の適法性

本件更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一四万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)であるから、同法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万四〇〇〇円を賦課した本件賦課決定は適法である。

三 抗弁に対する原告の認否及び主張

1 抗弁1(本件更正の適法性)のうち、同(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)の事実中被告がその主張のとおり本件青色申告承認取消処分をしたことは認める。主張は争う。

2 同2(本件賦課決定の適法性)は争う。

3 原告の主張

被告は、法一五〇条一項一号に基づくものとして本件青色申告承認取消処分をしたが、原告は、法一四八条一項に従って帳簿書類の備付け、記録及び保存をしていたから、法一五〇条一項一号に該当する事実はない。

仮に、本件青色申告承認取消処分が、被告所部職員による所得税調査の際に原告が帳簿書類を提示しなかったとの理由によるものであるとしても、法一五〇条一項一号の文理上、かかる事由が同号に該当するものではない。のみならず、原告は、右調査の際、帳簿書類を同職員に提示したにもかかわらず、同職員は、当初から原告に対し不利益な処分をすることを目的として、敢えてこれを検査しようとせず、粗暴な振舞いに及んだ末勝手に辞去したものである。

したがって、本件青色申告承認取消処分は違法であるから、これを前提とする本件更正及び本件賦課決定も違法である。

理由

一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二 本件更正の適否について

1 抗弁1(本件更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)の事実中被告がその主張のとおり青色申告承認取消処分をしたことは当事者間に争いがなく、同(二)のうち、原告が平成二年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二一〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したこと、同(三)(減算金額)のうち原告がえみ子を従来青色事業専従者としていたこと、以上の事実は、原告においてこれを明らかに争わないから、自白したものとみなされる。

しかして、右のとおり、被告は本件青色申告承認取消処分をしたのであるから、原告は昭和五八年以降青色申告者に対する特典である青色専従事業者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができないこととなる一方、原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額の控除を受けるべきこととなるから、本件所得税に係る総所得金額は抗弁1の(四)(総所得金額)のとおり四九二万八七四五円と算出されるところ、右金額は本件更正に係る総所得金額と同額である。

2 原告は、本件青色申告承認取消処分が違法であるからこれを前提とする本件更正も違法である旨の主張をする。

しかしながら、処分の取消訴訟において、先行行為の要件についての瑕疵を後行行為の違法事由として主張することができるのは、先行行為と後行行為とが一連の行為として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるような場合に限られるものと解される。

しかるところ、青色申告承認取消処分は、納税義務者に対し各種の特典を伴う青色の申告書によって申告することができる資格を付与する青色申告承認処分を取り消すことによって、その取消原因の存する年度に溯及して右の資格を喪失させる処分である(法一四三条、一五〇条一項)から、納税義務者の資格に関する処分あるいは納税申告の方法を規制する処分ということができる。他方、所得税の更正は、申告書の提出があった場合において、これに記載された課税標準又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他課税標準又は税額等の計算が税務署長の調査したところと異なるときに、税務所長が、申告書の記載を是正してその課税標準又は税額等を確定する処分である(法一五四条一項、国税通則法二四条)。そして、法律上青色申告承認取消処分がされたからといって必ず課税標準等が変動するというものではなく、青色申告承認取消処分をしたときは常に所得税の更正をしなければならない建前ともなっていない。そうすると、青色申告承認取消処分と所得税の更正とは、これらが一連の処分として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるとはいえないから、所得税の更正の取消しを求める訴訟において、その取消原因として、その更正に先行する青色申告承認取消処分の違法事由を主張することはできない。

したがって、原告の右主張はその前提とするところにおいて失当である。

4 そうすると、本件更正は適法である。

三 本件賦課決定の適否について

右二によれば、本件更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一四万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)となるから、同法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万四〇〇〇円を賦課した本件賦課決定は適法である。

四 結語

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中込秀樹 榮春彦 長屋文裕)

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